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日本ピクトさん学会
100均フリーダム 装テン(装飾テント) ペッ景 PET bottle scape 鉄管スロープ 【ピクトさんグッズ取扱店】 ・広島市現代美術館 ・ふくやま美術館 ・岡山県立美術館 ・喜久屋書店 イオンモール倉敷店 ・スタンダードブックストア茶屋町 作成者:内海慶一 Author:UTSUMI Keiichi picto@mx35.tiki.ne.jp ライフログ
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いま岡山市で「岡山芸術交流2016」という 国際アート展覧会が開催されてまして。 ![]() ![]() ![]() 「岡山芸術交流」についてはこちらをご参照ください。 http://www.okayamaartsummit.jp その関連プログラムで 「オルタナティブマップ」というものをつくりました。 ![]() これは、街のさまざまな場所を「作品」として 鑑賞してもらおうという主旨で制作した、 ちょっと変わった街歩きマップ(パンフレット)です。 ![]() お店や文化スポットなどを紹介しているのですが、 観光案内パンフレットのような紹介の仕方ではなく、 それぞれの場所にある何か(例えば看板など)を 写真で切り取り、鑑賞文を添えています。 写真はすべて私が撮っています。 エリア別に全3部作つくっていて、 現在第2弾まで配布が完了しています。 ![]() 眼/発見(美術館エリア) 鼻/探求(西川エリア) 口/伝播(奉還町エリア) 私を含む3名の推薦・執筆者が参加しています。 3人それぞれの目線の違いもあるので、 なおさら個性的な内容になっていると思います。 他の2名はギャラリストの桑田さんと、 デザイナーの軸原さん(コチャエ)。 軸原さんはデザインも担当されています。 表紙を見れば一目瞭然ですよね。 このパンフを持って岡山市街地の散策を 楽しんでもらいたいのはもちろんなのですが、 それ以上に、これを見たみなさんが 今度は自分の住む街を同じ目線で 新しく捉え直してもらえるとうれしいです。 岡山芸術交流「オルタナティブマップ」は 岡山市街の飲食店やホテルなどの他、 以下の施設で入手することができます。 岡山市役所 岡山市観光案内所 ももたろう観光センター 岡山シティミュージアム 岡山シンフォニーホール オリエント美術館 出石しろまち工房 岡山市民文化ホール 福祉文化会館 岡山市民会館 岡山国際交流センター 西川アイプラザ 西大寺百花プラザ さんかく岡山 区役所 公民館 図書館 他 けっこう人気で、すぐなくなるので 何度も補充してるらしいです。 なくなってたらすみません。 そんなときはこちら。 ウェブ版も制作しました! http://oasamap.jp 地図上のピンをクリック→詳細をクリックで 写真と文章が表示されます。(緑ピン以外) また、マップ表示形式の切り替えも可能です。 文章の末尾に(U)と付いているのが 私の推薦・執筆コマです。 例えばこれとか。 「岡山城下の擬木」 これも面白いです。土地の記憶。 「カーブするビル」 煉瓦萌え。 「相生橋水位観測所」 『タイポさんぽ』に掲載されている名品も。 「喫茶室イブリク」 これがいちばん振り切ってるかな。 「出石町の壁彫刻」 もちろん装テンも紹介。 「大樹の装飾テント」 岡山市民も意外と知らない岡山駅の見どころ。 「古レールの支柱」 「岡山芸術交流2016」は11月27日(日)に終了しますが、 街の鑑賞はいつまでもできます。 この「オルタナティブマップ」を楽しんだら、 今度はぜひ自分なりの鑑賞ポイントを見つけてみてください。 と、これを書いている現在、 最後の第3弾マップの原稿校正をしているところ。 奉還町エリア、もうすぐ入稿です。 もちろん近日中にウェブにも追加されるので、お楽しみに。 【追記】 無事に3部作が完成し、上記県内各所で配布中です。 また、全国の美術館(下記)にも少部数ずつですが配布していますので、 見かけたら手に取ってみてください。 PDFファイルもこちらからダウンロードできます。 http://oasamap.jp/download/ 紹介しているスポットそのものは岡山を訪れない人には 興味が湧きづらいかもしれませんが、 「これと同じ目線で自分の住む街を見たらどうだろう」 という好奇心へつなげてもらえたらと思っています。 私たちは、身近にある市井のデザイン、 あるいは無名のアートを見過ごしがちです。 また、重要文化財や教科書に載っているような遺跡は目に入りますが、 町の中にある「小さな歴史」や「日常にとけ込んだ文化」には なかなか気づけないものです。 みんながそういった身近にある「作品」を掘り起こしていったら、 全国どこでも、街歩きがさらに面白くなるはず。 私はこのマップの全国各地版が見てみたいです。 どんどん真似してつくってください。 県外の配布先はこちら。 国立新美術館 東京国立近代美術館 東京藝術大学美術館 森美術館 トーキョー・ワンダーサイト本郷 トーキョー・ワンダーサイト渋谷 東京オペラシティアートギャラリー 東京都美術館 東京都写真美術館 原美術館 ワタリウム美術館 21_21 Design Sight 3331アーツ千代田 BankART Studio NYK NADiff a/p/a/r/t 水戸芸術館現代美術センター 横浜美術館 神奈川県立近代美術館 川崎市岡本太郎美術館 金沢21世紀美術館 せんだいメディアテーク 名古屋市美術館 愛知県芸術文化センター 大阪市立美術館 国立国際美術館 国立民族学博物館 奈良県立美術館 滋賀県立近代美術館 京都芸術センター 京都造形芸術大学・芸術文化情報センター 京都国立近代美術館 京都市美術館 兵庫県立美術館 神戸アートビレッジセンター 芦屋市立美術博物館 西宮市大谷記念美術館 伊丹市立美術館 和歌山県立近代美術館 姫路市立美術館 米子美術館 島根県立美術館 奈義町現代美術館 地中美術館 丸亀市猪熊弦一郎現代美術館 高松市立美術館 高知県立美術館 愛媛県美術館 大原美術館 ふくやま美術館 広島市現代美術館 広島県立美術館 山口情報芸術センター 下関市立美術館 山口県立美術館 秋吉台国際芸術村 徳島県立近代美術館 現代美術センターCCA北九州 北九州市立美術館 福岡県立美術館 福岡アジア美術館 福岡市美術館 熊本市現代美術館 ▲
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| 2016-11-07 00:40
| 執筆
一冊の本で世界の見え方が変わってしまった、という経験をしたことありますか。『街角図鑑』(三土たつお/実業之日本社)はそんな本です。これを読めばきっと、いつもの見慣れた街が違って見えるはず。 ![]() パイロン ガイドポスト 防護柵 車止め 段差スロープ タイヤ止め 単管バリケード 境界標 舗装 縁石・排水溝 マンホール蓋 井戸ポンプ 路上園芸 のぼりベース 電柱 信号機 道路標識 街路灯 カーブミラー 勝手ミラー 回収ボックス 郵便ポスト 雰囲気五線譜 装飾テント 送水口 透かしブロック 外壁 シャッター 擁壁 消波ブロック 擬木 どれも街を歩けばどこにでもある、ありふれたモノですよね。でもそれをじっくり見つめたことのある人は少ないのではないでしょうか。本書では、これらのモノの役割や種類を豊富な写真とともに紹介しています。 私も装飾テント(装テン)について6ページ寄稿しました。これまでに撮りためた2000点以上の装テン写真から選抜した30点を掲載。鑑賞ポイントを「形」「タレ」「骨」の3つに絞って簡潔に解説しています。 ![]() 参考:装テン : japanese awnings 本書を企画したのは、ウェブサイト「デイリーポータルZ」等で活躍するライターの三土たつおさん。こちらの記事が発端となりました。 http://portal.nifty.com/kiji/150528193661_1.htm さらに遡ると、石川初さん(慶應義塾大学大学院教授、ランドスケープアーキテクト)の著書『ランドスケール・ブック ― 地上へのまなざし』の中のこんな一節に行き着きます。
この石川さんの希望が三土さんに宿って生まれたのが『街角図鑑』であると言えるかもしれません。実はさらに以前、2009年に三土さんがこんな記事を書いています。 石を見分けたい|デイリーポータルZ 昔からこのような欲望が三土さんの中にあったのだということが分かりますね。 もちろん石川さんも本書に寄稿されています。 ![]() 新しい知識を得て「へえ、知らなかった」と思う以前に、そもそもそれを立ち止まって見つめたことがなかった……ページをめくるたび、繰り返しそう思わされます。 この本は大人も子供も楽しめるはず。小学生なら夏休みに自分なりの調査対象を決めて「街角図鑑:○○篇」をつくってみるのも楽しいのではないでしょうか。 いや、大人もぜひやりましょう。自分なら街角図鑑に何の章を付け加えるか……そんなことを考えながら散歩してみてください。いつも見ている近所の風景が、ガラッと変わって見えますよ。 『街角図鑑』 三土たつお 編著 実業之日本社 2016年4月28日発行 ISBN : 978-4-408-11183-4 四六判160ページ(オールカラー) 本体価格 1500円+税 ■ 『街角図鑑』の出版記念イベントを 6月11日に岡山市で開催する予定です! 近日中に告知記事をアップします。 ▲
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| 2016-04-28 23:39
| 執筆
『100均フリーダム』のKindle版がリリースされました。未読の方はこの機会にぜひ。決して飲み物を飲みながら読まないでください。 http://www.amazon.co.jp/dp/B01D9KW276/ ![]() 『100均フリーダム』購入者の感想をこちらからご覧いただけます。数百人分の感想ツイートです。 http://togetter.com/li/70436 まずは無料サンプルをご覧いただければ。(PCの場合はamazonの販売ページの右側に「無料サンプル」ボタンがあります) 元になったウェブサイト「100均フリーダム」もどうぞ。もちろんウェブサイトで紹介していない作品が本にはたくさん載っています。 【Kindle初心者の方へ】 Kindle本はKindle端末がなくても読めます。Kindleアプリ(無料)をダウンロードすれば、PCやスマホでの閲覧が可能。PCにはPC向けアプリを、スマホにはスマホ向けアプリを入れてください。無料で読めるKindle本(青空文庫など)もたくさんありますよ。 『100均フリーダム』は現在4刷。第2回ブクログ大賞エッセイ部門(2010年)に入賞したり、ブックファースト新宿店「名著百選2014」に選出されたりしてます。 ![]() 壇蜜もおすすめです。 ■ こちらはNHKの「週刊ブックレビュー」で紹介されたときの動画。 (あとで消します) 週刊ブックレビュー|『100均フリーダム』 ▲
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| 2016-03-27 23:05
| 執筆
雑誌『生活考察』Vol.2(2010年10月発行)に寄稿した「シュロ景」という文章を以下に転載します。シュロが気になりすぎて、いろいろと調べた記録です。 雑誌掲載時はほぼ文章だけでしたが、転載にあたって私の撮影したシュロ景写真や補足リンクを挟み、また若干の加筆・修正を行いました。 ![]() シュロ景/内海慶一 シュロが気になっている。 よく庭木として植えられている、あの南国風の樹木である。シュロの植えられた家を見ると、いつもハッと立ち止まってしまう。なんというか、唐突なのだ。子供の頃からよく目にしているはずなのに、その姿に慣れない。慣れないどころか、近年唐突感は増すばかりである。 この感情はなんなのだろう。シュロの唐突さがイヤなのか、と言うとイヤではない。むしろあの「ハッ」を反芻している自分がいる。ひょっとして私はシュロが好きなのだろうか。恋の予感とはこんな気持ちだったか。 自分でもよく分からない感情をもてあましながら、シュロ景を見かけるたびに写真に収めている。シュロ景とは、もちろんシュロのある風景のことだ。 ![]() シュロはなぜ唐突なのか。 まず、あのモジャ毛である。幹を覆うモジャモジャした繊維。シュロを見るたびに「どうして」と思わずにはいられない。なぜお前はモジャモジャなのだ。 そして何よりあの高さ。成長したシュロは、ギョッとするほど背が高い。中には二階の屋根を越しているものさえある。そんなに高くならなくてもいいじゃないか。 おそらく植えた当初はここまで高くなるとは思っていなかったのではないか。それが三〇年、四〇年という年月を経て、ついに屋根を越したのだろう。まさかの屋根越えである。 ![]() 始めに「南国風の樹木」と書いた。シュロはなんとなくヤシの木を連想させるからだ。その南国風の木が瓦屋根の家の庭に植えられているというミスマッチ感が、唐突さの主要成分だとも言える。 しかしヤシの木(ココヤシ)をよく見ると、シュロとはかなり違う姿をしていることが分かる。ココヤシにモジャ毛はないし、葉の形状も異なっている。シュロの葉は掌葉(手のひらを広げたような形)だが、ココヤシは羽状複葉(鳥の羽根のような形)である。こんなに異なる樹木を、なぜ我々は一緒くたにしてしまうのか。「なんとなく佇まいが似ているから」としか言いようがない。 wikipedia:ヤシ シュロもヤシ科の植物だが、しかし在来種である。例えば戦国時代の武将、佐々成政(さっさなりまさ)が身につけていた佐々氏の家紋は棕櫚(シュロ)だ。 昔から日本に自生している木を、日本人はある時から「南国風」と認識するようになったのである。シュロは戸惑ったことだろう。急にいろんな人から「外人っぽい顔ですね」と言われるようになったのだから。
ちなみにシュロにはトウジュロ(唐棕櫚)とワジュロ(和棕櫚)があり、その名の通りトウジュロは中国から移入されたもので、ワジュロは日本の種だ。ワジュロのほうが葉が大きく、葉の先端がわずかに垂れるのが特徴。だが見た目に極端な違いはない。 ![]() 江戸近郊・染井の植木屋、伊藤伊兵衛が一六九五年に著した園芸書『花壇地錦抄(かだんちきんしょう)』にも、トウジュロとシュロの項目がちゃんとある。トウジュロは「葉しゃんとして手つよくかたし」、シュロの項には「つねのしゅろなり」とある。「つねのしゅろ=通常のしゅろ」という言い方が、当時すでによく知られた木だったことを表している。しかも園芸書に載っているということは、鑑賞用の庭木として定着していたのだ。 また蕉門の俳人、野童は「棕櫚の葉の霰(あられ)に狂ふあらしかな」と詠んでいるし(一六九一年)、与謝蕪村は「棕櫚に叭叭鳥図(ははちょうず)」という襖絵を描いている(一七六四~一七七二年頃)。シュロは近代以前から日常の中にあった。 ![]() 日本人がシュロを「南国っぽい」と思うようになったのは、日本人の中にヤシの木=南国というイメージができあがった後だろう。 南洋幻想という言葉がある。どことも知れない「南の島」に対して日本人が漠然と抱く憧れや郷愁のような感情を指して言う。南洋幻想が生まれたのは明治以降であり、日本人がシュロとヤシの木のシルエットをダブらせ始めたのもその頃からなのではないかと想像できる。 明治から大正にかけて南洋ブームがあった。南進論、南洋探検、南洋冒険小説などキーワードには事欠かない。第一次大戦後には日本によるミクロネシア(南洋群島)の統治と同島への移住、貿易が始まり、ますます「南国」は近くなる。それに伴ってシュロのイメージも「南国化」していったのかもしれない。 ![]() その一方で、シュロは日常生活と密接につながっている樹木でもあった。江戸時代以前よりシュロ皮の繊維からは縄、たわし、箒、蓑、下駄緒などがつくられていたし、葉は下駄表や敷物、座布団などに加工された。貝原益軒の『大和本草』(一七〇九年)にも「木は槍の柄とす。皮毛を箒とし、葉をも箒とす」とある。そして明治に入ってシュロの加工は一大産業となり、昭和初期には最盛期を迎える。 あのモジャ毛がれっきとした産業を形成していたとは。おみそれしました。モジャモジャ言ってすみませんでした。 しかしその後、安価なココヤシの果皮(パーム)がシュロ皮の代替品として輸入され始めたことで、シュロの需要は徐々に減っていく。さらに戦後、化学繊維の登場によりシュロ産業は衰退していった。 ![]() 「製品原料としてのシュロ」が必要とされなくなっていったその頃、第二次大戦をはさんでハワイアン(音楽)ブームが起こっている。バッキー白片や大橋節夫などの率いるハワイアンバンドが人気を博し、歌謡曲でも岡晴夫『憧れのハワイ航路』が大ヒット(一九四八年)。一九五三年には戦後初の海外ロケ映画『ハワイの夜』が公開される。一九五四年、これもハワイロケを行った喜劇映画『ハワイ珍道中』が公開。 一九六一年、テレビCM「トリスを飲んでハワイへ行こう」が話題に。一九六二年、エルヴィス・プレスリー主演映画『ブルー・ハワイ』日本公開。一九六三年、「アップダウンクイズ」放送開始。キャッチコピーは「一〇問正解して、夢のハワイへ行きましょう」。同年、加山雄三主演『ハワイの若大将』公開。一九六四年、舟木一夫主演『夢のハワイで盆踊り』公開。一九六六年、福島県に常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)オープン。 youtube:トリスを飲んでハワイへ行こう ちなみに海外渡航が自由化されたのは一九六四年のことだが、その年、渡航を申請した人の半数がハワイ旅行へ行ったという。しかしまだこの時期、海外旅行は一部の富裕層のものであり、多くの庶民にとってはまさに“夢のハワイ”だった。 ![]() このようなハワイ人気を含む「南国ブーム」が六〇年代に起こり、それと並行して「新婚旅行ブーム」が到来する。新婚旅行先として絶大な人気を誇ったのが宮崎県だった。そこは、当時の人々が国内に“発見”した南国だった。 この宮崎への新婚旅行ブームには様々な要因があった。まず第一に、宮崎が「南国」というコンセプトのもと演出されたまちだったということ。発案したのは「宮崎県観光の父」と呼ばれた宮崎交通グループ創始者・岩切章太郎。岩切は戦前から日南海岸にフェニックス(カナリーヤシ)の植栽を行っていた。フェニックスはもちろん外来種で、昭和に入って初めて国内での生育に成功した樹木だ。 wikipedia:カナリーヤシ(フェニックス) 舞台は整っていた。一九六〇年に島津久永・貴子(昭和天皇の第五皇女)夫妻が新婚旅行で宮崎を訪れ、宮崎という地が一躍脚光を浴びる。さらに一九六二年には皇太子夫妻(現在の天皇・皇后両陛下)が旅行で宮崎を訪れ、人気が高まった。日南海岸は「プリンセスライン」とも呼ばれ、花嫁の憧れとなった。 そして一九六五年に放映されたNHK連続テレビ小説「たまゆら」により、宮崎人気は不動のものとなる。これは川端康成が同番組用に原作を書き下ろしたもので、同時代の宮崎を舞台にしていた。最高視聴率四四・七パーセントを記録したという。 一九六七年にはデューク・エイセスの「フェニックス・ハネムーン」がヒット。宮崎を訪れた新婚カップルをテーマにした歌である。 一九六七年から一九七二年にかけて京都~宮崎間に「ことぶき」号という新婚旅行客専用の臨時急行列車が運行されていたというから、宮崎人気がいかに高かったかが窺い知れる。 ![]() 高度経済成長期という背景に加え、婚姻件数の増加がこのブームに拍車をかけた。特に団塊の世代が二十代に入った六〇年代後半から七〇年代初頭にかけて爆発的に件数が伸びる。ピークは一九七二年の一〇九万九九八四組。一説によるとこの年の新婚カップルのうち二十八万組が宮崎へ新婚旅行に行ったという。 ちなみに私が生まれたのがまさにこの一九七二年で、第二次ベビーブーム期にあたる。 このように振り返ってみると、少し古めの昭和スタイル住宅でシュロを見かける理由がよく分かる。南国情緒を愛した六〇~七〇年代の夫婦が、新居の庭にどことなくヤシの木の面影のあるシュロを植える。それはごく自然なことだったのだろう。時代のニーズを読み取った造園業者の戦略があったのかどうかは分からないが(シュロ産業の衰退でシュロの木は“余っていた”はずだ)、いずれにしてもそれを多くの人が受け入れたのである。 ![]() 昭和以前にもシュロを植える家はあった。例えば正岡子規は「村落に洋館ありて椶櫚の花」という俳句をつくっている(明治三十四年/一九〇一年)。やはり南国趣味を反映して洋風住宅に植えられることが多かったようだ。また前述したように江戸時代からシュロは庭木として認知されていた。ただ、まだ数は少なかったはずだ。 wikipedia:旧岩崎邸庭園(明治二九年/一八九六年竣工) 庭木に関する本をいくつか見てみると、興味深いことに、一九六〇年代に発行された書籍にはほとんどシュロが出てこない。例えば『庭木』(岡本省吾、一九六三年)という本には、フェニックス、ワシントニア、ソテツ、ビロウなどの南国風(とされている)植物が載っているにも関わらず、シュロは見あたらない。一九六八年に発行された『新しい庭木200選』(伊佐義朗)にもシュロの名はない。 しかし七〇年代に入ると、突然シュロが主役に躍り出る。『庭木 作り方と手入れ』(妻鹿加年雄、一九七五年)には詳細にシュロが紹介されているし、『庭木の手入れと管理』(小宮山載彦、一九七四年)には巻頭ページにシュロの写真が載っており、「洋風建築とマッチしたシュロ」というキャプションが添えられている。 それまでは洋館などに植えられていたシュロが、一九七〇年前後を境に「一般的な庭木」になっていったのだろう。 こうして過去をひもといてみると、暑苦しいシュロのモジャ毛にも労いの言葉をかけてやりたくなるし、あの素っ頓狂な高さだって、むしろ微笑ましく思えてくる。 私はシュロが好きなのだろうか。ここまで調べておいて好きも嫌いもないだろうと言われるかもしれないが、いまだによく分からない。気になるとしか言いようがないのだ。これからもシュロ景を見かけたら写真に収め続けるのだろう。 薬草の本を見ていたら「シュロは鼻血止めに用いられる」と書いてあった。あのモジャ毛を黒焼きにして、直接鼻に詰めるのだそうだ。いつかやってみようと思う。 「シュロ景」 初出『生活考察』Vol.2(2010年10月発行) ![]() ▲
by pictist
| 2015-07-30 03:27
| 執筆
説明はこちら ↓ すれちがい詩(2) http://togetter.com/li/763017 第一弾はこちら。 http://pictist.exblog.jp/21811800/ ▲
by pictist
| 2014-12-28 18:54
| 執筆
すてきな詩をみつけました。
タイトルは「すれちがい」です。
味わい深いですねー。 何度も読み返したくなります。 実はこれ、一行ごとに別々の人間が発した言葉。 すべて街なかで実際に誰かが言った言葉です。 ツイッターでリタさん(@lesizmo)が始めた #すれちがい会話というハッシュタグがあります。 カフェや電車、街頭などで聞こえてきた、 知らない誰かの言葉を投稿するタグです。 【2013】すれちがい会話 http://togetter.com/li/488704 この中から私が勝手にツイートをピックアップして 並べ替えてみたのが上記の詩というわけ。 文脈から自由になった、宙ぶらりんの言葉たち。 そこにはなんとも言えない独特の面白みがあります。 上記の「すれちがい」引用ツイートだけを 選んでまとめてみたのがこちら。 すれちがい詩 http://togetter.com/li/656026 10代から50代まで、発言者の年齢層はさまざま。 男女比も半々。 上記の「詩」を読んだあとにこちらを見ると、 ちょっと不思議な気持ちになりませんか。 みなさんも街で気になる言葉を聞いたら ぜひ投稿してみてください。 ▲
by pictist
| 2014-04-17 02:55
| 執筆
生活と想像力をめぐる雑誌『生活考察』Vol.5に
「風景の解体」という文章を書きました。 写真付きです。 ![]()
ご注文はこちらからどうぞ。 「生活考察」編集日記 ▲
by pictist
| 2014-02-12 00:30
| 執筆
![]() 生活と想像力をめぐる雑誌『生活考察』Vol.4に 「ペットボトルの町」という文章を書きました。 フィクションのような。ドキュメントのような。 随筆のような。妄想のような。 そんな。
『生活考察』はインディーズ誌なんですが、 ご覧の通りのすごい執筆陣(私は別として)。 一読者としても毎回楽しみにしている雑誌です。 読み進めてる途中ですが今号もしっかり面白いですよ。 ご注文はこちらからどうぞ。 「生活考察」編集日記 取扱店一覧です。 『生活考察』Vol.04取扱店一覧 中四国の書店さん、ぜひ! ▲
by pictist
| 2013-04-07 01:05
| 執筆
広島市現代美術館で開催中の特別展
「路上と観察をめぐる表現史―考現学以後」 に合わせて開設された特設サイトでコラムを書いています。 ![]() 第1回目のテーマはもちろんピクトさん。 初心者の方への入門編になればと思っています。 第2回は2月中旬に、 第3回は3月中旬にアップする予定です。 お楽しみに。 ■ 追記: コラム第1回「ピクトさん」 コラム第2回「ペッ景」 コラム第3回「装テン」 ▲
by pictist
| 2013-02-03 01:01
| 執筆
広島市現代美術館で素敵すぎる展示が始まりました!
「路上と観察をめぐる表現史―考現学以後」 1月26日(土)~4月7日(日) ![]() 〈出品作家・グループ〉 今和次郎、吉田謙吉、木村荘八、岡本太郎、コンペイトウ、 遺留品研究所、赤瀬川原平、トマソン観測センター、林丈二、 一木努、路上観察学会、大竹伸朗、都築響一、 チーム・メイド・イン・トーキョー(アトリエ・ワン+黒田潤三)、 ログズギャラリー、下道基行 ほか http://www.hiroshima-moca.jp/main/rojo.html どうですかこの顔ぶれ。 よくぞ企画してくれた!と叫びたい。 で、私も少し関わらせていただいてまして、 本展示の公式書籍にコラムを寄稿してます。 ![]() 『路上と観察をめぐる表現史 ──考現学の「現在」』 出版社:フィルムアート社 発行日:2013年1月28日 価格:2,310円 〈執筆者〉 松岡剛、中谷礼仁、内海慶一、田中純、石川初、 南後由和、みうらじゅん、中川理、福住廉 http://www.amazon.co.jp/dp/4845912090 それとこちらの特設サイトで 3回ほどコラムを書かせていただく予定です。 http://www.hiroshima-moca.jp/rojo/ 更新したらまたお知らせしますね。 広島市現代美術館のミュージアムショップでは ピクトさんグッズを取扱っていただいてます。 オンラインショップでは買えないアイテムも 置いてるので、お土産にぜひどうぞ。 ちなみにこちらは2010年に 広島市現代美術館へ行ったときに撮影したピクトさん。 ![]() このピクトさんに再会できるのも楽しみです。 ▲
by pictist
| 2013-01-26 04:17
| 執筆
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