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宇田君のこと
宇田君は中学の同級生だ。よく一緒に遊んだ。同じ部活だったし、好きなものが似ていて話が合った。小説や映画の話をたくさんした。ロックの話もたくさんした。本やカセットテープを僕たちはしょっちゅう貸し借りした。 ラフィンノーズを借りて、ブルーハーツを貸した。シャーロック・ホームズを借りて、江戸川乱歩を貸した。バック・トゥ・ザ・フューチャーを一緒に観に行った。ロバート・デ・ニーロのかっこよさについて話した。 高校は別々の学校へ行ったけど、家は遠くなかったのでときどき会った。たまに夜遅くまで宇田君の家で過ごすこともあった。宇田君の部屋は居心地がよかった。音楽を聴いたり、ビデオで映画を観たりした。宇田君は映画に詳しかった。 『アウトサイダー』を観た夜のことをよく憶えている。特に印象深いことがあったわけではないのに、なぜか憶えている日というのがある。アウトサイダー。コッポラ監督作だ。すでに一回観ていた宇田君が、僕が遊びに行ったとき「面白かったよ」と言って見せてくれたのだ。 劇中で「金色のままではいられない」 という台詞が出てきたとき、宇田君が「このシーン、ええよな」と言った。 電気を消した部屋。映画を観るときはいつもそうしていた。エンドロールが流れて、時計を見るともう11時だった。 高校を卒業して3年ほど経ったある日、宇田君は突然いなくなった。交通事故だった。僕はその頃県外に住んでいて、それを共通の友人からの葉書で知った。郵便受けの前で座り込んだのは、たぶん人生でそのときだけだと思う。 何年かに一度、夢に宇田君が出てくる。駅でばったり会ったり、なぜか机を並べて仕事をしていたり。そのたびに僕は心底ほっとして、話しかける。「わー、よかった。もう会えんのかと思っとったわ。どうしょうたん」宇田君はなにも答えず、ただニコニコしている。「あ、あの小説読んだ? あれ、なんじゃったっけ。タイトル忘れたわ。貸すよ。こんど持ってくるけえな」宇田君は笑って頷く。 夏休みなにしょうるん。もうギター買った? そうそう、宇田君、僕な、本出したんよ。すげえじゃろ。宇田君に読んでもらおうと思って置いてあるけえ。絶対読んでよ。学校の図書室にもあるかなあ。たぶんあると思うけど。また一緒に映画行こうよ。最近なんか観た? もしかして僕のほうがたくさん観とるんかなあ。そういえばな、僕すっかりおじさんになったよ。さいきん白髪が生えてきた。笑うよなあ。なんで僕おじさんになっとんかな。なんで僕のほうがたくさん観とるんかなあ。宇田君、僕の知らんこといっぱい教えてくれたじゃんか。僕より宇田君のほうが詳しいはずじゃんか。なんでかな。宇田君、また一緒に映画行こうよ。学生証探したらまだあると思う。宇田君も持っとるじゃろ? 割引してもらえるよ。なんで僕のほうがいっぱい映画観とるん。おかしいじゃんか。そんなのおかしいじゃんか。 チャイムが聞こえる。 宇田君と初めて会ったのは中学の入学式の日だった。1年9組。初日なので僕は緊張していた。教室に入って席につくと、前の席の生徒がすぐに後ろを向いて話しかけてきた。少し出っ歯で、垂れ目で、でもハンサムなやつだった。「ラジオって聴いとる?」と彼は言った。「ときどき」と僕は答えた。それから、休憩時間が終わるまで話をした。
by pictist
| 2012-08-13 00:17
| あれこれ
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